JCOG代表者 大江裕一郎
2017年4月より、下山正徳先生、西條長宏先生、田村友秀先生、飛内賢正先生に続く第五代の日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)代表者を務めることになりました、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎です。
JCOGは1978年に開始された厚生省がん研究助成金指定研究「がんの集学的治療の研究」班(主任研究者末舛恵一先生)を前身に、1990年に、当時の主任研究者下山正徳先生がJCOGと命名し、1991年に統計センター(現データセンター)を設置しました。それ以前の日本で実施される研究者主導の臨床試験は、審査機構も十分ではなくデータ収集・解析も研究者自身で行うという体制で実施されていましたが、JCOGが発足して初めて臨床試験のサポート体制が始まったと言えます。
1990年にJCOGがスタートした時には、リンパ腫、食道がん、肺がん内科、肺がん外科、胃がん外科、消化管内科、乳がんの7研究グループでしたが、現在では16研究グループに拡大しています。僅か1名でスタートした統計センターも、データセンターと名称を変更し、運営事務局と合わせると50名を超える職員が支えています。名実ともに日本最大の臨床試験グループとなっています。現在のJCOGは、運営委員会、中央支援機構(データセンター・運営事務局)、監視・管理機構(各種委員会)、研究グループで構成され、国際的に貢献しうる臨床試験の実施とデータ保証ができる体制が整備されています。
JCOGは、国立がん研究センター研究開発費、日本医療研究開発機構研究費を主体とする公的研究費により運営されています。JCOGの目的は、がんに対する前向きの多施設共同臨床試験を実施することにより、有効性の高い新たな標準治療を確立して、その研究成果を国内外に発信し、がん患者さんの診療の質と治療成績の向上を図ることです。開発を目指す新しい治療法には、抗腫瘍薬の組み合わせによる薬物療法、外科手術や放射線治療、内視鏡治療に加えて、これらを併用した集学的治療があります。研究者主導の臨床試験であるために、資金提供するスポンサー企業の意向にとらわれることなく純粋に研究者の考えに基づく研究を実施することが可能です。JCOGは、外科手術に関する研究、外科手術や放射線治療と薬物治療を組み合わせた集学的治療の研究、高齢者を対象とした研究などで、特に大きな業績を残してきました。これらの研究は正に公的研究費でなければできない重要な臨床研究です。
一方で、現在のJCOGのデータセンターや支援部門は国立がん研究センター中央病院の一部門と位置付けられていますが、JCOGそのものは主として公的資金で運営される研究班が集まった任意団体であり法人ではありません。未承認薬を用いた医師主導治験や先進医療制度下の臨床試験を行う体制は、まだまだ整備が必要な状況です。近年の急速ながん治療の進歩に対応するには、さらなるプロトコール作成、審査の迅速化が求められます。国内外の他の臨床試験グループとの共同研究も実施されていますが、他の臨床試験グループの試験や企業治験などとの競合も問題です。16研究グループのアクティビティにも大きな差があります。このように解決しなければならない問題も山積しています。
JCOGは日本最大の臨床試験グループとして、これまで大きな成果を上げてきましたが、今後もさらに発展させてがん患者さんのために、より良い治療を開発し続けなければなりません。JCOGで実施すべき研究は何であるかを常に考え研究を行うことが求められますが、伝統あるJCOGをさらに発展させるよう努力いたしますので、関係各位のご協力をよろしくお願い申し上げます。